ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

映画『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』ジョン・クラシンスキー監督、エミリー・ブラント主演

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【ネタバレ、ネガティブコメント有り】

 好きな映画です。悪くはないと思います。


 だけどね・・・やおらスピーカーのAC電源ケーブルを「ぶらぶらしてたらこれからの絵的に邪魔だから!」と言わんばかりにニッパーでバチンと切っただけで電源要らずのポータブルスピーカーに変身させるのは乱暴過ぎやしませんか!?


 それと、本作の重要なギミックである「補聴器によるハウリングでクリーチャーに嫌がらせ」なんですが、それをラジオ放送局起点でやることで世界を救う救世主ストーリーを展開するんですけどAMだかFMバンドに乗せられる周波数帯域の音波であればわざわざ補聴器を海を渡って持っていかなくてもどうにでもなったんじゃなかろうか・・・。しかもラジオ局から流れてきたハウリング音を電池で動いているような旧式のラジカセで出力してクリーチャーに効くのなら、カセットテープに録音した音源でいくらでもクリーチャー避けを量産できたろうに。
 物語をドライブする時間的・空間的キーとなる補聴器の存在意義をわざわざ蔑ろにする方向に脚本を進めているのが残念でなりません。
 音という要素一本でクリーチャーと人間の戦いを描くジャンル映画だけに、その「音」周辺の設定の粗さはどうにもすんなりと飲み込めなかったです。

 


 さて、ネガティブコメントだけでは面白くないので、私にとっての本作の奇妙な魅力の話をさせてもらいます。


 音に反応して人間を殺戮するこのクリーチャー。数あるクリーチャーホラー作品のなかでも特異な描かれ方をしています。まず名前がない。「奴ら」とか「バケモノども」なんていう代名詞や呼称が与えられることもありません。わりとおおっぴらにその姿を晒す割にその存在に肉付けをされることが殆どないのです。指揮官的なアルファー個体もマザーシップも無く地球にやってきた目的も不明。このクリーチャーに殺された人間の死体がキレイに残っていることをみると、どうも人間を捕食しているわけでもない。立派な牙がならんだ顎や鉤爪を持っていますが、プレデター(肉食獣)的な描写が一切ないのです。不思議です。繁殖等々の生態も一切描かれていません。

 

 そのくせ、なんなんでしょう、彼らのこの人間臭さは。
 音を立てると、怒ってその音源をシバキまわすんですよ!(笑)


 「2」で鉄道車両なんかが襲われているのを見ると、おそらく「音のするもの」に対する攻撃性は生物・無生物に区別は無いようです。だからこそ、捕食のために人間を襲っているのではないのでしょう。「1」ではばっさり説明を省略していましたが、「2」のDay1で不時着っぽいカットが出てきます。そうなると彼らは「来たくて来たわけじゃない」と考えられるのです。
 そこまで想像してみるとこのクリーチャー達が、「望んでもいない赴任地に飛ばされて、過酷な環境やカルチャーショックに苦しみ、相手は全然そんなつもりはないのに、何言ってるか分かんねーけどその話す言葉や態度がすべて自分に向けられた敵意のように感じられて、周囲へ暴力的な反応をしてしまうストレス耐性の低いモンスター社員」に見えてきて仕方がないんです。だんだん不憫に思われてきます。


 自分でも泳げないこと分かっているはずなのに水に入ってワタワタしている姿を見るにつけ、なんだか愛着まで湧いてきて・・・。