ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

映画『異端の鳥』

f:id:upaneguinho:20210724144722j:plain

TOHOシネマ日比谷で『異端の鳥』を観てきました。
3時間の修行です。泣けるか?泣けるわけないやん!! 上映開始から1時間経ったところで「頼むからここから出してくれ!」と思いました。ラストで思ったのは「あぁこの映画が終わって良かった・・・」その一点。人間と鬼畜の境目はどこにあるでしょうか?という設問を3時間問い続けられる。これで「感動した」とか「泣けた」という境地には、僕には爪の先も到達できませんでした。
だいたい、『悪童日記』だとか『ベルリンは晴れているか』なんていう読み物が好きだから、ちょっと映画通ぶってハード目の映画を観に行こうかなんていう考えが浅はか過ぎたんです。
治安の良い漂白された社会ではなかなか遭遇しにくい課題を、主人公の少年はひとつひとつ乗り越えて生き延びていく。だけど、これら「困難」は第二次大戦下のヨーロッパだけで起こりうることじゃない。
暴力、差別、貧困、性搾取、そして「異質の排除」。
鑑賞して思い出されたのは「日本には差別がないからこんな問題には無自覚」だと平気で言い募り、「綺麗な戦争」を夢見て軍拡を唱える「量産された無教養」。
苦しくてつらい、不愉快な映画です。私にはおいそれと人には勧められません。鑑賞後のその人の世界観に少なからず暴力的な影響をもたらす映画だからです。でも僕はこの映画を鑑賞して本当によかったと思いました。
演技、演出、映像、これについては間違いなく高い次元の隙のない素晴らしい作品です。監督の言う「川の流れのリズム」に合わせたゆったりとしたテンポで突きつけられる生々しい人間性と戦争の残酷さ。これを比喩と回収を短いスパンで繰り返して、それこそ神話や聖書のようなドラマに仕立てています。
お勧めはしないとは言いましたが、今年一番の衝撃的な「体験」をお求めならば、丸一日はこの映画のために空けておいてください。眠りにつくまでには心の整理が必要だし、鑑賞後になにかしようとしても手に付かないです。
凄い映画体験でした。