ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

映画『アイム・ユア・ウーマン / I'M YOUR WOMAN』監督:ジュリア・ハート

監督:ジュリア・ハート
製作:ジョーダン・ホロウィッツ、レイチェル・ブロズナハン
脚本:ジュリア・ハート、ジョーダン・ホロウィッツ
出演:レイチェル・ブロズナハン

   マーシャ・ステファニー・ブレイク

   アリンゼ・ケニ

 

 Amazon Original『I'm Your Woman』が良すぎて、宮崎弁で言うと「てげなひったまげたじ!(とても驚きました)」です。今シーズンならNetflix Originalのマイケル・ファズベンダー主演『ザ・キラー』と双璧を成す作品でしょう。ちなみに『ザ・キラー』は劇場で観ました。大好きです。

 さて、『I'm Your Woman』のあらすじをざっと説明します。

 ぼんやり深入りしないで済ませているけどもどうやら犯罪家業で稼いでいる夫のもとで幸せに暮らしているお花畑若妻(レイチェル・ブロズナハン)は、その実、子供をなかなか授からない悩みにも加えて、犯罪者の夫の被せる柔らかな鳥籠の狭い世界の中で鬱憤を抱えていた。ある日、夫が男の子の赤ちゃんを家に連れてくる。金にモノをいわせてぎりぎりアウトな方法で連れてきた里子。お花畑若妻はさすがに戸惑うが自分の子供を持つことを渇望していた彼女は未経験の子育て生活に順応しようと必死に努力する。そんななか、大ヤマを踏みに現場に行った夫が帰ってこず彼女も命の危険にさらされる状況に。夫の世界も人間関係も、眼の前の子育ても、自分さえも危険に巻き込む夫のやらかした事件の真相も全く不明のまま、夫の手下数人の手助けで自宅を脱出する。夫が重用していたらしいがどうも複雑な関係性を匂わす黒人男性(アリンゼ・ケニ)に助けられ逃避行を続けるが、頼りの彼も連絡が途絶える。そこに、裏稼業の世界で名の知られている謎のゴッドねーちゃん(マーシャ・ステファニー・ブレイク)が現れ手を差し伸べるが・・・。

 いやもう、脚本と演技が最高。ダルいテンポの会話劇でここまで締まった映画を一本作るって凄い!『4ヶ月、3週と2日』以来の快感かなぁ。車やテッポウの使い方も職人監督S・クレイグ・ザラー『ブルータル・ジャスティス』を彷彿させるほどキレッキレ。

 この作品で自分が何より好きなのは、フェミニズム、シスターフット、街場の包摂、そしてマッチョを否定せずに描く反マッチョ的家族愛、などなど素敵すぎる素材を作品中に散りばめ、暴力シーンは容赦なしに顔面に銃創を開ける容赦なさに加えて、メインテーマの「主人公お花畑若妻の覚悟と成長」のキーファクターに血縁や生い立ちやギフテッド的特性や思想信条に依るところをほぼ排したところです。

 では、この映画をドライブするキーファクターは何か?

 それは、「世界を知る」ことなのです。

 自動車の運転、人付き合い、赤ちゃんの扱い、テッポウの撃ち方、裏世界との距離感、銃撃戦での身の処し方、怪我人の介助・・・彼女は彼女の能力不足で卵が上手に焼けずに癇癪を起こしていたわけではなく、自分の世界を組み立てるために世界を「知る」ことを柔らかい鳥籠に阻まれていたことに気付き、世界の広がりに戸惑い、鳥籠の中に安住しそれなのにやりどころのない怒りを溜め込んでいた自分の矛盾に自覚して腹を立てていただけなのです。

 彼を知り己を知れば百戦殆からず。

 ラストの、微笑みのような、達成感を匂わせる不遜とも言えるあの素晴らしい表情の演技。

 庇護の大義名分のもとに「知ること」と「自己決定権」を奪われた状態が、どれほど個人を弱らせ、可能性と行動力を力を奪っているかを上質なドラマで示唆する優れた映画だと思います。

 おすすめです。

 最後に、蛇足ではありますが、この映画を観て思い出した女性が主役の、女性の連帯を描く私の大好きなハードボイルド映画をご紹介します。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『女はみんな生きている』
フローズン・リバー