ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

幸徳秋水 著『帝国主義』岩波文庫

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 120年前、明治34年(1901年)に海外情勢や世界史に関する豊富な知見を踏まえて、当時の明治政府がしゃかりきになって列強と肩を並べるべく邁進していた軍国主義帝国主義を分析し批判した秋水の初の著作です。軍国主義帝国主義の前提となる愛国主義なんてものはもう徹底的にこき下ろしています。

 

 彼は土佐出身で中江兆民の弟子。内村鑑三の盟友。同じく土佐出身の林有造や板垣退助の薫陶を授かったジャーナリストです。ゴシップ記事を書いて稼いでいた時代もあったというのですから興味深いですね。書き方も内村鑑三の陶酔風味よりも檄文型の苛烈さがあってわたしは好みでした。

 

 アナキストであり社会主義者の秋水ですが、『帝国主義』においてはそのあたりの主義主張は強く感じませんでした。ただひたすら「非戦論」を貫いています。ですのでわたしにとっては非常に飲み込みやすい本でした。内村鑑三といえども『代表的日本人』では西郷隆盛の伏見の戦闘における非情な指揮に礼賛を捧げています。ただのブラック上司によるやりがい搾取なんですが。蛇足のついでですが、あの田中正造でさえも議会における自分達のポジションを強化する目的で日清戦争を肯定しています。

 

 話が少しそれましたが、わたしは明治という時代を肯定的に捉えることもしていませんし『坂の上の雲』的史観を無邪気に楽しんでよいとも考えていません。

 明治維新において武闘派として討幕に尽力した武士がたくさんいたにも関わらず、明治政府立ち上げでは薩長に干されそれほど多くの要職に就くことがなかった土佐藩士。わたしは脱藩した坂本龍馬なんかよりもよっぽど切腹に追い込まれた武市半平太に思い入れが強いです。

 そんな土佐を土壌に、自由民権運動というリベラリズムが芽吹いたというのは本当に興味深い歴史だと思うのです。

 

 そして、幸徳秋水帝国主義』は明治政府に発禁とされ、本人も政府の弾圧による死刑。有名な大逆事件です。

 その後、言論弾圧に成功した日本政府はいくつかの戦争の果てに太平洋戦争に突入します。

 この『帝国主義』はGHQ占領下でも復刊は叶わず、ようやく40年ぶりに岩波文庫から公刊されることになったのは1952年のことだそうです。

 1901年に初版が発行され、復活するのが1952年。その間に日本が参戦した近現代における戦争の全てが起きているというのはあながち無関係ではないと思われます。