ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

森鴎外『舞姫』

想像以上の男のクズの話でした。男前だろうと頭よかろうと、「こんおとこはすかん!(宮崎弁)」。金原ひとみに言わせると「オートフィクション」なんでしょうね、森鴎外の半自伝的小説。
主人公である太田豊太郎のドイツ人女性エリス(設定は未成年)の扱いも後半にグダグダになっていって、同じ男性として全く同情できないどころか女性関係にだらしない自分でもそこは糾弾したくなる酷い顛末なのです。映画『アデルの恋の物語』くらい女性が攻めていればまだ救いの余地もあったのでしょうが、太田の子を身籠ったエリスが「あなたのような黒い瞳の子が生まれるのが楽しみ」だと愛を訴えているのに、仕事を優先してエリスを切り捨てるクズ男太田。僕は完全に『舞姫』太田よりドストエフスキー『白夜』の主人公青年に共感の意を示します。
梶井基次郎檸檬』前半の街なかを歩く主人公の寄る辺なさの表現が大好きなのですが、こちらも、作品前半の国を背負った特権意識を盾にヨーロッパで片意地張っている様が痛々しいです。それを上手に書けけたのも森鴎外の才能故ですし政府の仕事で海外留学できたのも森鴎外の努力と学識あってのことでしょう。だけどそれ以上に当時の欧州でのアジア人の卑屈が身につまされます。ちなみに谷崎、夏目、梶原らは全然問題無いのですが森鴎外の文体だとオーディオブックで聞くのはキツいです。なるほど、意識高い系なのですね、森鴎外
話は少し飛躍しますが、戊辰背戦争~西南戦争、日清、日露にかけて兵隊が脚気でたくさん死んだのですけど、森鴎外はそれを伝染病と言い張っていました。それに反論していたのは我らが郷土宮崎出身の高木兼寛です(参考:吉村昭『白い航路』)。森鴎外のドイツ医学理論派と高木兼寛のイギリス実践医学派の対立とも捉えることが可能です。結果、高木兼寛のほうが正しくて、森鴎外のせいでたくさんの兵隊が死んだことになり、高木兼寛は「ビタミンの父」と呼ばれるようになりました。ただ本人は脚気の原因を栄養素不足とまでは特定できていたのですが、特定のビタミンとまでは断定できていなかったのです(炭水化物の摂り過ぎ、タンパク質不足と考えていた)。