『グランド・ブダペスト・ホテル』
監督: ウェス・アンダーソン
出演: レイフ・ファインズ、F・マーレイ・エイブラハム
エドワード・ノートン、マチュー・アマルリック
シアーシャ・ローナン、エイドリアン・ブロディ
ウィレム・デフォー、レア・セドゥ
ジェフ・ゴールドブラム、ジェイソン・シュワルツマン
ジュード・ロウ、ティルダ・スウィントン
ハーヴェイ・カイテル、トム・ウィルキンソン
ビル・マーレイ
オーウェン・ウィルソン、トニー・レヴォロリ
「なぜ、名優達はこぞってウェス・アンダーソンの映画に出るのか?」
昨晩観ました。
宝石箱みたいな映画です。
大好きな俳優達がとても活き活きとした演技をしていて、でも、ウェス・アンダーソンのいつもの紙芝居的構図と飛び出す絵本的カメラワークの中にしっかり収まっていて。
わりと速いテンポで物語を進行させるために、それぞれの役者のキャリアを借景したりしてほとんど雰囲気だけでキャラを描ききっています。
説明的なセリフが出て着るのは狂言回しの「ゼロ」がレイフ・ファインズを語るところと、そのレイフ・ファインズが「ゼロ」の妻シアーシャ・ローナンの魅力を褒め称え(言わば執着して)儀式のように「ゼロ」に窘められるシーンくらい。
そのどちらも、補完的と言うよりは演出としてとても重要な部分だと感じられ、説明的なうっとうしさはみじんも感じさせず。
そうか・・・俳優達が気持ち良いのかな、彼の映画に出るということが。
主役のレイフ・ファインズはとんでもないマダム・キラーです。80歳の相手の話も出てきました・・・。作風のせいでさらっと描かれているのがまた可笑しいのですが、ジョニー・デップの『ドンファン』なんか目じゃない!「ほかの宿泊客と同様に不安を抱えていて、軽薄で金髪」とゼロに評されているところ、この映画の裏メッセージである第二次世界大戦直前の空気感をすごくよく表している重要なワードだと思います。ちなみにぼくは「タイタンの戦い」でも思ったんですが、リーアム・ニーソンと区別がつかなくなることが良くあります。
F・マーレイ・エイブラハムは本当に素晴らしい重鎮ですね。前のめりに映画を観始めた学生時代、『アマデウス』の彼のサリエリ役は衝撃でした。連続ドラマ『HOMELAND』の役どころも大好きです。本作では狂言回しのポジションですが、タイトルとなるホテルの歴史に関してとても大事な役割を担います。とても抑えた演技で団子っ鼻が光っています。
エドワード・ノートン、かっこういいなぁ。ずっと追っかけてるんだけど理解者だったりする銭形のとっつぁん的役回り。だけど、ラスト直前に彼が出てきたはずのシーケンスでとても悲しい話が・・・それだけに彼の存在が印象づけられます。
エイドリアン・ブロディ、いいなぁ好きです。『ダージリン急行』が最高だったもの。ウェス監督と組んで悪いわけがない。とってもエレガントな嫌みっぽい悪役を好演。ヒゲ似合います。
ウィレム・デフォー、僕の先入観そのままの役でした。大好きだなぁこの役者さん。
ジェフ・ゴールドブラムは相変わらずインテリの役がよく似合う。メガネとヒゲとスーツがやたらと格好いいです。
ジュード・ロウってこんなふくよかな表情の演技もするんですね。惚れ直しました。
大好きだったティルダ・スウィントンはデコレーション盛られすぎて気付かず!
ハーヴェイ・カイテル、年寄りがそんなことやってるとはみじんも思わず気付かず!
ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソンちょい役過ぎて気付かず!
トニー・レヴォロリは素晴らしい。彼は今後が本当に期待できます!!
僕にとっての本作の一番の収穫はシアーシャ・ローナン!
肝の据わった女の子やらせてジェニファー・ローレンスに勝てるのは彼女しかいない(ハンガー・ゲーム観てないですけどウィンターズボーンは大好きです)。いや、あの芯の強さが引き立つのは彼女の線の細さがあってこと!『私は生きていける』で大ファンになった彼女にここで会えて最高に幸せです!
最後に、この映画で特筆すべき点をあと二つ。
驚くほど多重の入れ子構造になっているんですね。面白い!!
それと、架空の国名、架空の政党名でおとぎ話になっていますが、戦争とファシズムと流行病の悲しい話です。このテーマを決して見落としてはいけないと思いました。
『白痴』坂口安吾
作中では井沢が白痴の女性と性交渉していたかっていうのは明らかには書かれていないけど、おそらく肉体関係はあったんだろう。
でも私には白痴の女性と性交渉を持つという変態性は、この作品においてそれほど重要ではないように読めた。
職場や文化的な空気や戦争の激しい移ろいを背景としながら、井沢の世界に侵入してきた女性はラスト近くの一瞬を除いて一貫してニュートラルな存在。これがもし、押し引きができてしまう女性が相手だと、両社の関係性においての井沢の精神が語られることになる訳で、そんな作用反作用を殆ど起こさない対象のパーソナリティとして「白痴」が用いられたんではないかと。
井沢のそばに女性がいて、肉欲の対象になり、守るべき存在になり。
ただその女性が白痴であるがゆえに、井沢の精神がとても純粋に描かれていると感じた。
ラストの朝日のくだりはとても素敵だった。女性を「豚」に例えるけど、守って、食べさせてやらないといけない「肉体」であるという説明だと捉えている。そして井沢が太平洋戦争末期の極限の状況で生き延びるために必要とあらば、その豚の尻の肉を少しづつ食べながら交わるのだろう。
人間が生きるために必要なものを究極的に抽出したら、この作品に書かれているようなものになるんじゃないかと思う。井沢は、肉欲の対象がそばに現われたことで明らかには生存本能を逞しくしている。だから女性を見捨てたりしなかった。基本的に自分本位でありながら、愛情までには次元の上がらない、なんだろう、相互扶助でもない、他者を利用してでもという残酷さを越えた一個の魂のサバイバルを見たような気がする。
それにしてもアゴタ・クリストフの『悪童日記』を読んだときにも感じた「昔話では済まされない」この気持ちの悪さはどうしたものか。
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『ブルー・リベンジ』(原題:Blue Ruin)
監督: ジェレミー・ソルニエ
出演: メイコン・ブレア、デヴィン・ラトレイ、エイミー・ハーグリーヴス
ケヴィン・コラック、イヴ・プラム、デヴィッド・トンプソン
僕はいつも映画を良いとか悪いとかで語らないようにしています。
そりゃさすがに雑な映画や商業主義的な映画に批判的な事もまれに言いますが、僕の間尺はいつだって「好きか/嫌いか」。
でも久しぶりに「好き」だって言えない映画を観てしまいました。
『ファーゴ』も『ノー・カントリー』も熱狂的に「好き!!」と言えます。
だけどこれは・・・。
振り返れば『エレファント』や『アメリカン・ヒストリー・X』を「良い映画だよね」なんて通ぶっていた自分が本当に恥ずかしいです。『ボーリング・フォー・コロンバイン』だったら「こんな銃社会
、ダメだよね~」って言えるんです・・・。だけどこれは、善人面の善人が、みじんの邪悪さを感じさせずに殺された以上に殺すわけですよ。そこに鑑賞者の感情移入も狙いながら・・・。分かりやすい反戦や銃社会批判のプロパガンダのほうがよっぽど楽しめます。褒め言葉ですが・・・ほんっとうに気持ちの悪い映画でした。テーマ以外の作りがものすごく良いだけに評しようがないです。
思い出してみると、『プリズナーズ』の気持ち悪い脚本を巻き込まれ型でステルスに仕掛けられた印象。
それと敵役側の家族が『アニマル・キングダム』を彷彿させて仕方がなくって。
特に年配女性のあの雰囲気って典型なのでしょうか・・・?
『フローズン・リバー』のイントロでメリッサ・レオが、崩れたメイクでタバコをふかし、やさぐれた雰囲気を出しながらも鑑賞者をグッと引き寄せたあの意志の強さとは対局のあのだらしなさというか・・・。
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『コンスタンティン』
監督:フランシス・ローレンス
出演:
キアヌ・リーヴス ジョン・コンスタンティン
レイチェル・ワイズ アンジェラ・ドッドソン
/イザベル・ドッドソン
シャイア・ラブーフ チャズ
ジャイモン・フンスー パパ・ミッドナイト
マックス・ベイカー ビーマン
プルイット・テイラー・ヴィンス ヘネシー神父
ティルダ・スウィントン 天使ガブリエル(ハーフ・ブリード)
ギャヴィン・ロズデイル バルサザール(ハーフ・ブリード)
ピーター・ストーメア サタン(ルシファー)
久しぶりに再観しました。
いやー、やっぱり面白い!
冒頭の車との衝突シーンから衝撃だし、たたみかけるようなキアヌの悪魔払いのシーンが漫画チックで格好良い!
それにしてもこの映画の世界観は完成されています。
ティルダ・スィントン演じるガブリエルの高慢さと独善さは本当に鼻につくし、ラスト間際のキアヌにイテこまされた瞬間のあの表情は最高!
そしてピーター・ストーメアのサタンが怖い!キモイ!!
足下の演出なんかも素晴らしい。セリフがとても人間臭いし。
ガブリエルがびしっとダークスーツを着ていて、サタンが純白のジャケット・パンツを着ているなんて衣装のアイデアも、既成概念からは逆転させつつストーリーと世界観に奥行きを持たせて大成功していると思います。
それと、『欲望のバージニア』で子犬っぽかったシャイア・ラブーフが相変わらず子犬でした。
最後に、僕はレイチェル・ワイズがあまり好みではないようです。
『欲望のバージニア / LAWLESS』(2012)
監督:ジョン・ヒルコート
出演:シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ
ゲイリー・オールドマン、ミア・ワシコウスカ
ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク
ガイ・ピアース、デイン・デハーン
いやー良かった!
何が良いってガイ・ピアース。この映画はガイ・ピアースの映画です。神経質なサイコで残酷卑劣。密造者を裸にしてアッついコールタール被せて固めて人んちの軒先に置いていくなんて最低です。髪型も最低です。眉も無いから顔なんて麿です。女好きで下衆のくせに女性蔑視と人種差別全開。それをまぁ楽しそうに演ってること・・・。
L・Aの時の彼はどこに行ったんだ? ってなくらい。
自信もってこの役を受けられるガイは脂乗りきっていますねぇ。
そして、ジェシカ・チャステインが良いのです!
僕は『ゼロ・ダーク・サーティー』で惚れてしまったのです。
ミワもいいけどジェシカの熟女の魅力にはかないませんわ!
正直言って、彼女に好意を寄せられて、あそこまで距離をキープできるトム・ハーディーは男らしさを通り越してちょっとあれなんじゃねーかと途中まで心配しておりました。
それとですね、この映画に出てくるクラシック・カー。
素晴らしいですね。
撮影のためとはいえ、あんなに全開で走らせて・・・。
アメリカ映画は懐が深いぜ!!
映画『欲望のバージニア / LAWLESS』(2012)
『ファーナス/訣別の朝 OUT OF THE FURNACE』(2013)
監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベイル、ウディ・ハレルソン
ケイシー・アフレック、フォレスト・ウィテカー
ウィレム・デフォー、ゾーイ・サルダナ
サム・シェパード
随分前に観たのですが、妙に痛い心の引っ掻き傷のようなものを残した映画です。この映画がどれだけオフィシャルに『ディア・ハンター』へオマージュを捧げているものなのか分かっていないのですけど、製鉄所、鹿撃ち、退役軍人のトラウマ、アメリカの闇、たくさんの共通するテーマがベトナムからイラクへと時代を変えて扱われています。
おそらくそれは、アメリカ人の儀式なのでしょうね。
娯楽作品としての戦争映画にも素晴らしい作品はたくさんありますが、ハンバーガーヒルやフルメタル、ジャーヘッドにシンレッドライン、そういった系譜の映画というのは、おそらくこれからも戦争をやり続けないといけない国に生きる人間に必要な苦い薬なんだと思います。
さて、この作品ですが、とにもかくにも出演陣が素晴らしい。
私は、クリスチャン・ベイルが本当に好きです。『アメリカン・サイコ』を観た時にこんなに美しい人がいるんだといっぺんに惚れてしまいました。
『ノー・カントリー』のウディ・ハレルソンも大好きですが、本作の彼はいい! すげーこえーです!!プライベートでも得体の知れない人のようですが、深い深い暴力の闇を表現できる希有な俳優ですね。
ケイシー! いいぞケイシー・アフレック!!
不覚にも『キラー・インサイド・ミー』では彼の演技がトラウマになるほど恐怖を覚えた私、その後『リターン・トゥー・マイ・ラヴ
LONESOME JIM』のゆるーい役で完全にヤラれました。本作ではTBSドラマ『半沢直樹』の近藤(滝藤賢一)のような追い詰められ方をしていてまことに宜しい。
そして『ニューローズホテル』から個人的にお見かけしていなかったウィレム・デフォー! 僕はなぜだかジェレミー・アイアンズか彼が出ている映画ってすごくテンション上がるんですけど変態ですかね? 本作でもキモイ! そしてほぼ本線に絡まない! すげぇ役者だ!!
フォレスト・ウィテカーはいつも通りなので省略(好きですよ!)
最後はゾーイ・サルダナ。うわー綺麗だわ、この人。サンディー・ニュートンも好きだったけど、この人も綺麗。ウィテカーはしょったのはちょっとした焼きもちだったのかも。
そんなわけで、アメリカの田舎のドタバタ。すげぇ役者達のおかけげですげぇ映画になっています。
大好き、この映画。
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