ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

『未来からの遺言 -ある被爆者体験の伝記-』伊藤明彦 著、岩波現代文庫

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 凄い読後感の本です。


 8月6日のあれやこれやで思うところがあり、2012年に復刊されるもすでにプレミア価格(定価920円→Amazon新品3,726円)になっているこの本を取り寄せ、昨日と今日で読み終えました。なんとか8月9日に間に合いました。


 今まで太平洋戦争に関する本は何冊も読んでいますが、原爆に関する書籍はお恥ずかしながら初めてです。『はだしのゲン』も全部読んだという記憶はありません。
 この本が読みたいリストに入ったきっかけは2020年11月18日放送のTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で映画ライター・てらさわホーク氏が紹介していたからです。お叱りを恐れずに申し上げますと、戦争・核兵器・平和といったテーマではなく、純粋に書籍として興味を持っておりました。


 千人以上の被爆者へインタビューを行い、その肉声をアーカイブして音声作品として各地の公的機関、平和祈念施設へ寄贈するという活動をライフワークとした、本人も長崎で原爆をリアルタイムに経験した著者が、ある一人の被爆者のインタビューとその後の親交、その被爆者の長崎原爆後の来し方について書かれた本です。


 多くは語りません。語れません。


 ちょうど中盤「暗転(P127)」から始まる迷子にどっぷりハマってください。単純な読み物ではないです。不謹慎は承知の上ですが、こんな題材でなければ私はエンターテイメントとして絶賛していたでしょう。


 繰り返しますが、凄い読書経験になると思います。心地よい感動とかまったくそんなことはなく、戸惑いと思索を繰り返しながら、核兵器と人間という極大な関係性にあぶり出された一個の生命が人間らしさを取り戻す格闘を、パラノイアと呼んでもよい筆者の執念が見出し、記録した本作を、とにかく畏敬の念を持って指でなぞるようにたどっていくことになると思います。


 ルポタージュでありながらノンフィクションの枠で捉えられない、凄本でした。