『シング・ストリート 未来へのうた』
監督: ジョン・カーニー
出演:
フェルディア・ウォルシュ=ピーロ コナー
ルーシー・ボーイントン ラフィーナ
マリア・ドイル・ケネディ ペニー
エイダン・ギレン ロバート
ジャック・レイナー ブレンダン
ケリー・ソーントン アン
ベン・キャロラン ダーレン
マーク・マッケンナ エイモン
ドン・ウィチャリー バクスター
『シング・ストリート 未来へのうた』を観ました。
かなり久しぶりの映画鑑賞です。ずっとオリジナルのSUITS観てたんですが、アメリカのドラマは中毒性高過ぎて危険。時間がいくらあっても足りない!! で、映画に戻ろう!ってことでどの映画を観るかなと悩んでいました。いきなり重いのも辛いし、かといって多少心に引っかき傷でも残してもらわないと連続ドラマに戻りかねない・・・。
で選んだのが本作。公開当時に評判が良かったので気になっていました。ジョン・カーニー監督の『はじまりのうた』が大好きだったので。この映画も監督得意の音楽映画ですけど、音楽も万能じゃないっていうほろ苦さを残すストーリーはあざとくなくて良かったです。
それと、イギリスやアイルランドの映画って、特に不況を描いた作品では生々しいほどの人間関係をえぐるけども(それが代え難い魅力でもありますが)、本作はそこに重点を置かずに割とサラッと描いている。好き嫌いの問題だと思いますが、自分には良い塩梅でした。なぜかというと、繰り返されるボケのパターンや大人のオモチャなんかのネタの散りばめ方が上手でそれがすごく楽しめたから。あまり湿っぽいところに意識が集中し過ぎなかったのは鑑賞にプラスだったと思うのです。
それに、主人公とヒロインの未来を暗示するラストをあんな描き方するつもりだったら、せめて中盤はカラッと作りたかったに違いない。
話は少し逸れるのですが、バンドメンバーのキーマン(メガネの彼)が『ハイ・フィデリティ』のジョン・キューザック若かりし頃に思えて仕方がない。そして主人公のお兄さんはハイ・フィデリティのジャック・ブラックの若かりし頃に思えて仕方がない。
つまり、僕には『ハイ・フィデリティ』のあのレコード屋の店員がアシストした青春ラブストーリーとして楽しめたのです。
『ハイ・フィデリティ』のジョン・キューザック(左)にジャック・ブラック(右)
本作でエイモンを演じるマーク・マッケンナ。笑いの半分は彼起点。
主人公のお兄さん役ジャック・レイナー。『リトル・サンサー』のお兄さんを彷彿させるラストシーケンス。
最後に、この映画のラストの描き方に魂が震えました。貧乏や大人の支配に立ち向かうために若さと行動力と音楽は武器にはなれど万能薬ではないという暗示。未来に挫折が待っていたとしても自分で見て触ってみるまで立ち止まりたくないという愚直さ。
お幸せ駆け落ち映画じゃない展開は流石です。
『エル / ELLE』(2016年フランス)
監督: ポール・ヴァーホーヴェン
原作: フィリップ・ディジャン『エル ELLE』(早川書房刊)
出演: イザベル・ユペール ミシェル・ルブラン
ロラン・ラフィット パトリック
アンヌ・コンシニ アンナ
シャルル・ベルリング リシャール
ヴィルジニー・エフィラ レベッカ
鑑賞後、1週間は消化不良のままだった。
というか、胃のあたりに異物感がずっと残ったような感覚。自分が食べたのが和食なのか中華なのかフレンチなのか、それとも棒杭なのかが判別しずらい、そんな気持ちがずっと続いた。私の苦手監督ポール・バーホーベンはいったい何を伝えたかったのかがわからなかったのだ。
イザベル・ユペールのハードボイルドサスペンス?
中高年セックス賛歌?
性倒錯者達のブラックコメディドラマ?
時間が経って分かったことは、この映画は次から次へと現れる「うへ!気持ち悪っ!!」を素直に楽しめばいいホラー映画だったということ。2回目鑑賞はないだろうけど、ポール・バーホーベンらしい良い仕事だと思う。序盤で女優の演技と絵の質感の良さには惑わされて方向性を見失ってしまうかもしれない。でもサスペンス的な伏線を全部、変態ネタで収めてしまうところは、豪腕過ぎだが潔さは感じた。変態監督が技巧的に自分の変態性を映像化した、そんな印象。
男性の皆さんは、「イザベル・ユペール、美熟女だしオッケー。ぜんぜん抱ける。」をどこまで保てるか、自分を試しながら鑑賞してみて欲しい。
『ウォールフラワー / THE PERKS OF BEING A WALLFLOWER』
『ウォールフラワー / THE PERKS OF BEING A WALLFLOWER』(2012)
監督: スティーヴン・チョボスキー
製作総指揮: ジェームズ・パワーズ
スティーヴン・チョボスキー
原作: スティーヴン・チョボスキー
『ウォールフラワー』(アーティストハウス刊/集英社文庫刊)
脚本: スティーヴン・チョボスキー
出演: ローガン・ラーマン チャーリー
エマ・ワトソン サム
エズラ・ミラー パトリック
久しぶりにナイーブな感受性全開の青春映画を観た。
主役のローガン・ラーマン、ヒロインのエマ・ワトソン、そして飛び抜けて良かったお兄ちゃん役のエズラ・ミラーの演技が瑞々しくて素晴らしい。なんせエズラ・ミラーは抜群に上手かった。
主人公の精神的な不安定さの原因となった過去の記憶が蘇る下りで、後半にとんでもないネタをぶっ込んできてびっくりしましたけど、説明的過ぎず映画全体の印象を壊すことなく深みさえ与えているところなんかは非常に上手い作りだと思う。
内向的な主人公が居場所を得て、友人を作り、恋をして、ABCのステップを踏んで成長していく典型的な青春映画。うじうじしている主人公が、文学や音楽のセンスに溢れていたり、キレるとめちゃくちゃケンカが強かったり、実際のところはモテモテだったりと若干スーパーマン的な設定だけど、自分も含めてリアルに冴えない人間に勇気を与える良い脚本だった。
やっぱり人には「居場所」というのは本当に大事なんだな。
『女神の見えざる手』
『女神の見えざる手』
上映時間 132分、製作国 フランス/アメリカ
初公開年月 2017/10/20
監督: ジョン・マッデン
脚本: ジョナサン・ペレラ
出演: ジェシカ・チャステイン エリザベス・スローン
マーク・ストロング ロドルフォ・シュミット
ググ・ンバータ=ロー エズメ・マヌチャリアン
アリソン・ピル ジェーン・モロイ
マイケル・スタールバーグ パット・コナーズ
アマチュア映画評論家のウシダトモユキという方がやっている「無人島キネマ」というPodcastがとても出来が良くて聞いているのですが、その番組で本作を絶賛していたので気になって観てみた。そして何を隠そう僕はジェシカ・チャスティンが大好きだ。初見は「ゼロ・ダーク・サーティー」。ジェシカ演じる主人公マヤが、ビン・ラディン襲撃へ出発するシールズの隊員を「私のために殺してきて」と見送るシーンがある。彼女はそのとき、CIAという職業人として「殺せ」と言ったのか、友人である同僚を失った女性として言ったのか。この映画について言えば、彼女にその区別が無いところにおもしろさがあるのだと思う。物語の進行と主人公ジェシカの職業人としての成長に平行して進むプかロフェッショナリズムとアイデンティティの同一化。そうか、『ハート・ロッカー』でもそうだったけど、キャスリン・ビグロー監督は偏執と隣り合わせのプロフェッショナルを描きたいのだな。そんな配役にぴったりハマっていたジェシカ・チャスティンのクールな情熱と真摯さ、そして押さえ込まれた葛藤の演技に僕は一目惚れした。単純に顔が好みでもある。
さて、今回鑑賞した『女神の見えざる手』。傑作である。素晴らしい。映画の基本構成はほぼジェシカ・チャスティンの一人芝居。漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のジョセフ・ジョースターばりに「おまえの次のセリフは ・・・」的な展開を次から次に重ねてくる脚本至上主義のサスペンス活劇。「え、どうなんの?どうなんの?」って物語が、後半にツーンと研ぎ澄まされて本作の(僕の考えるところの)テーマに収斂される構成は秀逸。少々の表現を変えて繰り返し使われる「ロビー活動は予見すること、敵の動きを予測し、対策を考える。勝者は敵の一歩先を読んで計画し、敵が切り札を使った後、自分の札を出す。」という台詞が主人公スローン(ジェシカ)の仕事の流儀を表しているのだが、脚本も徹底的にそれをなぞっていく。そう考えるといささか分かりやすくし過ぎた嫌いもあるが、それはこの素晴らしいエンターテイメント性に溢れた脚本の底にもう一本のテーマを仕込ませているからだろうと考えた。
そのテーマとは…先鋭化した能力と人格ゆえの生きづらさとどう折り合いをつけるのかという事。彼女がアイデンティティを保つために犠牲にしなければいけないこと。それは家庭を持つ事であったり、友情を育む事であったり、心安らぐ日々を過ごす事であったりという事。スローンのマキャヴェリズムを地で行く仕事っぷりに、周囲の人間は彼女の優秀さを認めながらも戸惑い、時に傷付き、距離を取らずにはおれない。その事を彼女自身は自覚しながら、さらにロビイストとしての目的達成に傾倒していく。彼女の言う「勝つ為の能力」を行使することを自身の生き様に同一化していく。その様は果たして人並みの幸せを諦めた可哀想な女性の姿だろうか。それをそう感じさせない法案の内容と「メモ」の中身が秀逸なのだ。目的達成を目的化することなく、彼女は自己の信条をかたくなに守り、地位や報酬を潔く投げ打つ。全く違うジャンルの映画だが、『ダメージ』のラストを彷彿とさせるあの乾いた「達成感」がたまらない。
『ゼロ・ダーク・サーティー』では、ジェシカ・チャスティンは全人格をもって職業に打ち込み、任務であるビン・ラディンの暗殺に成功したあと、喪失感とも言えないような微妙な表情を浮かべる。おそらくそこには自己の倫理とプロフェッショナリズムの間の葛藤があったのではないか。そして本作では生きることを勝つことと同義とすると腹を決めたある女性が自分なりの正義を貫くために、どこまでリスクを許容するかの葛藤の物語なのだ。そう、思い起こせば劇中で主人公の生い立ちはほとんど語られない。彼女がなぜそんな苛烈な人格になったかの説明はすっぱりと切り捨てられている。ラストを人情落ちにしなかったことも、観客の視点を散漫にさせないことに大きく貢献している。
さて、ロビイストの映画と言えばケビン・スペイシー主演の『ロビイストの陰謀』がある。とかくお金の話に目が行くが、私はあくまで、家族と仕事と男の話、自己実現とプロフェッショナリズムと信仰心の葛藤の物語と捉えている。フレームは『女神の見えざる手』と似ていながらほぼ真逆のメッセージになっているのが非常に興味深い。ケビン・スペイシーは「仕事の成功が全てではないよね、金じゃないよね」と刑務所の中から我々に伝えているようだった。
そして『女神の見えざる手』において主人公は、「私、人に対する思いやりもないし利用することも厭わないソシオパスの一歩手前。だけど私をこの世に生かしてくれるせめてものお礼に、世直しに身を費やすわ。」と後ろ姿で訴えているような気がするのである。
先入観無しで観て欲しいお勧めミーハーアクション映画3本
僕が好きなアクション映画と言えば金字塔の『ダイ・ハード』、コンバットシューティングの演出が秀逸な『コラテラル』、役者も豪華だしいちいちマニアックな描写をする『RONIN』なんですが、ここでは「自分の好みで劇場に足は運ばなかったけれども、観てみたらめちゃんこ良かったやん!」な三本をご紹介します。
作品はこちら
①三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船
②カウボーイ & エイリアン
③エンド・オブ・ホワイトハウス
【三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船】
これは楽しめました! 絵作りも役者も文句なし!! 設定もキャラが立っているし、導入部分のエピソードも人間味があってぐいぐい引き込まれます。 ミラ・ジョヴォヴィッチと オーランド・ブルームが一歩引いて嬉々として嫌みな役をやっているのが素晴らしい。金かけたキャストと衣装とVFX。でも脚本とアクション演出の技あり感が素晴らしい「あー観ておいて良かった♡」な一本。
【カウボーイ & エイリアン】
「vs」じゃないところがせめてもの救いなくらいどうしようもなく萎えるタイトル。ところがこれ、僕にとってダニエル・クレイグのキャリアでドラゴン・タトゥーに次ぐくらい好きな作品。いや、冷静に考えてみてくださいよ、ダニさんとハリソン君とサム・ロックウェルとポール・ダニをこんなめちゃくちゃな設定の作品で一度に観られるなんて他にあります?! そして何より世界観が破綻していなくて、ダニさんのキャラ設定に奥行きまである凄い脚本。馬に乗って異星人の船を攻略するすげぇ面白い映画です。
嘘か本当かは知る由もないんですがホワイトハウスの内情やSPのことについてもの凄く良く描かれています。納得性高し。ジェラルド・バトラーの孤軍奮闘っぷりはもちろんジョン・マクレーン刑事には及びませんが、この作品ではマクレーン刑事の「独り言」に勝るとも劣らないモーガン・フリーマン演じる副大統領の合いの手が入ります。作品としてはホワイトハウス・ダウンやローン・サバイバーよりも上を行っていると思う本作。良い勝負なのは『13時間 ベンガジの秘密の兵士 』ですかね(この作品はミーハーでもないので落選ですが、めちゃくちゃ面白いので是非観て欲しいです)。主役のジェラルド・バトラーを差し置いて大統領役のアーロン・エッカートがすげぇ良い!おんぶにだっこ感はヒーロー然たるところはないですけど、『インデペンデンス・デイ』の大統領ビル・プルマンに負けず劣らずの味を出していますよ!! アクション演出の工夫がいちいち楽しい作品です。