ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

映画『茜色に焼かれる』石井裕也 監督

尾野真千子   田中良子
和田庵     田中純
片山友希    ケイ
オダギリジョー 田中陽一
永瀬正敏    中村

 

【あらすじ(公式H.P.より)】
1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しており、お芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年振りに会った同級生にはふられた。社会的弱者ーーそれがなんだというのだ。そう、この全てが良子の人生を熱くしていくのだからー。はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは?

 

 FBの友人に勧められてAmazon Primeで鑑賞しました。面白い!

 

 こんなに良いとは予想していませんでした、私は吉田恵輔 監督『空白』よりも深田晃司 監督『よこがお』よりも本作のほうが断然好きです。

 辛いんです。辛い映画なんです。どこで脚本が展開するんだよ・・・と思いながら主人公良子(尾野真千子)と息子の純平(和田庵)が世間から受ける理不尽、合法的な社会暴力、嘲笑、冷笑、いじめを耐えていくのですが・・・ずっとしんどいやんけ!

 ところが、終盤も終盤で「あれ?ジャンル変わった??」くらいの勢いで猛烈なクライマックスの立ち上がりをします。カタルシス、とも違う、明らかな変調を映画が起こします。恐ろしい。あれだけ社会的弱者が受ける差別と社会的暴力を見せつけながら、ラストでエンターテイメントへ昇華させるとは!

 そこに尾野真千子のソース味のこってり演技を持ってきて・・・

 

「うわ、なんか、とんでもねーもん観た!(笑)」と放心。

 

 この映画には『プロミシング・ヤング・ウーマン』的にカタログのようにあらゆるタイプのクソ男が出てきます。そしてあらゆる種類のハラスメントが出てきます。主人公たちは「まぁ頑張りましょう」と諦め、「もっと怒っていい!」と互いの傷を舐め合う。その様子は理不尽な環境に対する過剰適応に見えてしまう。

 それが変化するきっかけとなったのは「怒りの発露」であり、紐帯でした。

 これは大きな意味があると思います。

 沖縄での抗議行動に幼稚で低劣な揶揄をして批判を浴びている下品なメディア人がいましたが、彼がやろうとしているのは弱者の発露する怒りの踏みつけです。そして、こつこつと努力をして労働をし、地味に社会を下支えする人々からの感情搾取です。

 下品で低劣な無教養クラスタの感情消費のためにすり潰されるのは権威や地位ではなく、常に弱者です。

 

 最近手に取ったコミック・平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』、高浜寛『SADGiRL』を始めとする一連の作品が、その弱者・・・とくに女性に光を当てているのには明らかな時代性があると思います。

 高浜寛は怒りの発露とはまた異なる諦観のような「生きていこう、まるで挫折したことがないように」というメッセージを発していますが、それとて女性であるということだけで与えられる「無理ゲー」という理不尽への抵抗だと捉えています。

 

『茜色に焼かれる』で良子(尾野真千子)はクライマックスでこう叫ぶのです。

 

「コケにするなぁあ!!」

 

 彼女が「まぁ頑張りましょう」と自分に言い聞かせて棚上げしていたもの、「もっと怒っていい!」と言われても苦笑いで棚上げしていたものは何だったのか。

 

 コケにするなと怒りをあらわにした時に守ろうとしたのはそれとは別の何かだったのか。

 

 無理ゲーに過剰適応してしまった半分死人の日本人はぜひ本作を観て、怒り方を思い出してほしいと感じました。