ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

映画『ベイビーわるきゅーれ』阪元裕吾 監督

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 池袋シネマ・ロサにて口コミで盛り上がっている『ベイビーわるきゅーれ』を鑑賞しました。最近はすっかり引きこもっていたのと、前回スクリーンで鑑賞した『The Lighthouse』が辛過ぎて久しぶりの劇場になりましたが、評判通り満足度高い!


 いやー、面白かったです!


 企業として殺し屋を雇って仕事をさせている組織に属する女子高生殺し屋二人が、高校卒業を機に社会に適応するために賃貸暮らしを始めてバイトを探すよう会社から命じられる・・・という、設定的にはファンタジーのアクション・ブラックコメディなのですが、なんとも言えない味わいの独特の世界観を作り上げています。


 まず主人公二人は殺し屋なのですが、彼女らには切迫感や深刻さが一切ありません。殺しの仕事に遅刻しかける、弾倉を入れたままの服を洗濯機にかけてしまう、銃器の隠し場所を忘れる、現場で武器を落としてしまう・・・ここらへんの演出は「よくそんなので殺し屋が務まるな!」というツッコミを誘うのではなく、ハイティーン女性二人の人間味が微笑ましく、思わずほっこりしてしまう鑑賞者本人を「そのノリおかしいやろ!」という苦笑いの方に引き込んでいきます。


 殺し屋が主役のアクション映画なので、たくさんの人間が殺されて死体の山になっちゃうのですが、その死体の描き方に少し特徴があるなと感じました。ジョン・ウィックの流れるようなカメラワークが少ないので、死んだあともわりとそこに白目向いて横たわっているカットが多いなと思うのです。ドンドンパンパン次から次へフレームアウト・・・というリズムではないのですね。かといって『メランコリック』のようにはジットリしていない。「殺し」に対しての不思議な距離感です。これは本作全体を覆う「善悪の彼我にある、あっけらかんとした殺人行為」という味付けのために意識的に付けられた演出のように思えます。脱色し過ぎない絶妙の味わいのグロテスクさがあるのです。ここは学生時代から殺人映画を撮り続けてきた阪本監督の本領発揮なのでしょう。


 さらにこの映画の最大の見所はそういった殺人やグロといったエクストリームな描写と、あまりにもリアルなハイティーン女性の生活感や気だるさ、若さゆえあるあるな葛藤を並列で描ききるどころかそれらを強力に結びつけて、「同じ人格の少し角度の違う見え方」くらいのさり気なさでパッケージしちゃったところだと思います。プロの殺し屋がそのだらしなさで仕事で失敗するわ、止むを得ないとはいえ私情でヤクザにカチコミかけるわ、報酬無しの大量殺人に同僚を巻き込むわ、もうめちゃくちゃ。
 でも、そこが良いんです!あり得ない設定にあり得ない脚本に、心の底から感情移入できる主人公二人の日常ともがくような心象風景。これは観た人でないとなかなか伝わらないと思うのですが、『メランコリック』の脆さや危うさを後ろに感じさせる多幸感溢れるエンディングとも違う、瑞々しさに溢れた爽やかな映画体験でした。


 肝心のアクションですが、私は100点をあげてもいいと思います。素晴らしかったですね。私は『RE:BORN リボーン』『狂武蔵』の坂口拓アクションがあまり好きではなくて・・・(冒頭のコンビニ面接からの格闘シーンは明らかに『RE:BORN リボーン』のオマージュに見えますが)。この映画の格闘シーンは実戦にありそうな不細工なバタバタも有り、アップやカットでごまかさないカメラで、何が起きているのか、戦っている者同士が次に何を意図して動き出すのかがきちんと伝わってくる撮り方をしていて物凄く好みです。ソダーバーグ監督『エージェント・マロリー』の格闘シーンにもう少しケレン味を加えたような印象でした。アクション監督の園村健介氏はパトレイバーメタルギア、バイハザなどのドラマ・ゲームのアクション監督を務められた方で、絵的な派手さよりも文脈を大事にする私好みの格闘シーンを作られる方のようです。
 なにせ現役スタント俳優の伊澤彩織のぶっきらぼうな佇まいが総合格闘家浜崎朱加選手にそっくりでひと目惚れしてしまいました。渡部役の三元雅芸とのクライマックスの格闘シーンは本作の白眉です。カッコよかったなぁ・・・

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 バイプレーヤーとしてはお掃除屋さんとして呼びつけられる田坂さん役の水石亜飛夢が最高でした。本作ナンバー1のシーンは主人公役の髙石あかりとの掛け合いです。仕事をしてたら絶対こういう人いるっていうキャラ造形に、なぜか渓流釣りの出で立ちでランディングネットをぶら下げている・・・管釣りで遊んでいるところを急に呼び出されたのか、機嫌があまりよろしくない。そして、プロの殺し屋に仕事の事で上からの説教をするところなんか最高です。今年の脇役ナンバー1は『ビルとテッドの時空旅行』に出ていたアンソニー・キャリガン演じるフリーザみたいなポンコツ暗殺ロボット「デニス・ケイレブ・マッコイ」でしたが、彼を超えましたね。『黄龍の村』では主演のようで、楽しみです。

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 最後に、本作のメッセージについて感じたところなのですが、ラバーガール大水洋介演じるコンビニの店長、本宮泰風演じるヤクザはいずれも、主人公二人が対峙する「世間」を代表するおっさんです。そしてシャレがわからずキモくてウザい。主人公二人の居心地良い世界に踏み込んでくる不愉快を象徴する男性達です。本作では主人公二人がたまたま殺し屋なので暴力と銃で痛快な仕返しをやりとげますが、現実ではなかなかそうもいきません。だけども、ラスト付近の伊澤彩織の自分を許して肯定する述懐に触れたときにはたとあの印象的なイントロの妄想シーンを振り返って、我々は我々の大事なスペースを守るために心の中で取りうる手立てはいろいろあるぞ、フィクションの暴力を弄ぶ自由を失うな、なんて言われているのかなとニヤニヤしながら映画館をあとにしました。

 

 池袋シネマ・ロサ、素敵な映画館でした。