泉野明 冨永みーな
篠原遊馬 古川登志夫
荒川茂樹 竹中直人
柘植行人 根津甚八
もう20年ぶりくらいに観直したのですけど最高のポリティカルスリラーですね。面白い! 押井守監督のナンバー1は『スカイ・クロラ』だったのですが、今回の鑑賞でこっちが1位に入れ替わったかもしれません。
テロリスト柘植(つげ)の声は根津甚八で、自衛隊のキーマン荒川の声は竹中直人という中高生(リアルタイム当時の私にも)にはまったく響かないなんとも贅沢な出演陣。
資本で買われる欺瞞的平和、一部先進国の安寧のために犠牲を強いられる周辺国の不可視化、役人の保身や政府の日和見主義、それらを批判する難解な会話劇を飲み込めない方にはぜんぜん面白くともなんともないであろう、ほとんどアクションシーンのないSFロボットアニメです。クライマックスのカタルシスで言えばサイバー犯罪をテーマにした1作目に軍配が上がるかもしれませんが、私にはとにかく南雲隊長(画像の女性)の切ないロマンス(三角関係とまで拡大解釈してもよいかもしれません)や職業倫理と義憤と情念の間で葛藤する大人の女性の気持ちのゆらぎを見事に描いている本作が魅力的でたまりません。本当に南雲隊長に惚れてしまいました。それに、顔は見えないのですが、南雲隊長の母親の着物姿の背中の演出、あれには思い出し泣きしそうになります。
シリーズの主要キャラクターである泉野明や篠原遊馬以下旧特車2課メンバーの登場シーンが驚くほどの勇気でばっさりと間引かれているのですが、それでも際立ったシーンをそれぞれ割り当てられて存在感を発揮しています。私はおやっさんこと榊清太郎が自宅前に集まった旧特車2課のメンバーに激を飛ばすシーンが好きで好きでたまりません。その前の後藤隊長の間延びしたセリフが本当に良く生きています。
そして本来の主役である泉野明が「わたし、レイバー好きの女の子で終わりたくないの」と遊馬に告げる短いシーケンスは、自身の憧憬や警察官に求められる正義、つまりプロフェッショナリズムさえも超えてもっと人間味のある連帯のために行動する覚悟を見せる卓越したシーンだったと思います。あの短いシーンで南雲隊長の行動原理や後藤隊長の生き様を間接的に補強している重層的な演出には思わず声が出ました。
褒めてばかりですが、難点を言えば、高温多湿の環境(石像のシーンからカンボジアと推察される)で機械化部隊を運用したいという思いでPKOにレイバー隊として参加した柘植は交戦許可がおりずにそこで部隊を全滅させてしまうのですが、自衛隊の作戦行動の前提をいやほどわかっているはずの柘植がそれをテロの動機とするストーリーは、手に入れたおもちゃで遊びたいガキが怪我したような印象で軽薄な印象を受けるという点です。映画『ピースメーカー』のテロリストもただの私憤ですが、もう少し納得感があったような。
とは言え、脚本の伊藤和典(『空母いぶき』『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』)は緻密で隙きのない、かつ情緒的で時代性を超越する素晴らしい世界観を見せてくれました。
凄い映画です。大好きです。