ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』アグニェシュカ・ホランド監督

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 スターリンに農業集団化政策を強行されて飢饉に陥ったウクライナに侵入取材した実在の英国人ジャーナリストを題材にした映画です。ウクライナに入ってからの描写で二度、耐えられなくて鑑賞を止めました。辛かったです。数百万人の飢餓死を招きながら、当時この事実は隠蔽され続けていました。しかもニューヨーク・タイムズ紙などの西側メディアとスターリン政権の癒着によって隠されていたのです。

 

 共産主義の圧政による民衆の苦しみ、飢えによる狂気を圧倒的なビジュアルで描きながら、ジャーナリズムの使命と限界、そして欺瞞について鋭く問題提起しています。私には後者のテーマがあまりにも現代的な問題として捉えられ、やるせなくて吐き気さえ感じました。

 

 本当のことを知ることの難しさ、報道がいかに恣意的に操作されるかの内情、そういった諸々を腹に収めて、世の中を飛び交うニュースに向き合うべきなのでしょう。

 

 ジョージ・オーウェル役のジョゼフ・マウルが抜群でした。当時、共産主義・平等社会というのが秘密主義のヴェールに包まれ西側自由主義陣営にも憧れをもって受け止められていたというのは驚きです。

 

 終盤にドイツ人記者役のヴァネッサ・カービーがひとり語りするシーンがあるのですが、そこにラジオで流れるヒトラーの演説がとにかく怖かったです。劇中にスターリン自体はプロバガンダの肖像画でしか出てきません。このコントラストの付け方もぐっと来るアグニェシュカ・ホランド監督は上手いですね。ロマンス描写の抑え方が私にはとても好ましかったです。

 

 そして、『4ヶ月、3週と2日』を超えるくらいにご馳走の肉料理のシーンに嫌悪感を覚える本作の食事シーンの演出は、真面目一辺倒のお硬い映画じゃ済ませないわよという監督のケレン味が出ていて、題材はとにかく重いけども、純粋に「あぁ上質な作品を鑑賞したな」という満足感が強い映画でした。