ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

長浦 京 著『アンダードッグス』KADOKAWA

f:id:upaneguinho:20220125205220j:plain

 合わなかったです。残念。半分読んだところで「ピタっ」と進みが止まりました。

 アンダードッグス・・・「負け犬」チームの機密情報強奪作戦が中国返還前夜の香港で繰り広げられる。そこへ招集された元農水省官僚の主人公はいかにして作戦を遂行し、生き延びるか、というあらすじです。米国は日本の農産物市場の自由化へ圧力をかけるために農水省の裏金作りをリークしてスキャンダル化し、その影響で主人公の古葉(コバ)は農水省を追われてしまう。それぞれがそういう生い立ちを引きずっているチームメンバー「負け犬たち」の【業】が本作のメインプロットだと思っていたのですが、中盤にさしかかるころになるとそこにメンバー同士のライヤーズポーカー、そして依頼者は互いに競わせリスクヘッジをする目的で複数チームを雇っていることが判明し、チーム対抗バトルロワイヤル要素まで入ってきて、かつ米国、中国、ロシア、英国、あとは覚えていませんがいろいろな国のインテリジェンスが裏で糸を引いていることを匂わせだして、端的に言うと散らかってしまってるなという印象なのです。

 「やべ、風呂敷たためないかも!」と作者が思ったかどうかは知りませんが、発散しかかった中盤直後、突然チーム数を間引き出します。じゃそのストーリーライン、入れなきゃよかったよ、登場人物覚えきれないですよ・・・。

 とにかく終始そんな調子で、展開を詰め込みたいがために登場人物像に深入りしていく間が与えられず、私には上滑りな駆け足のストーリー運びに感じられました。主人公古葉の戦闘訓練を積んだわけではない役人上がりならではのサヴァイバル術であったり、特殊能力(段取り、根回し、記憶力に偏執的な修練)は十分魅力的なのですが、どうもその人物像に深みがささない。もったいないです。それゆえに彼のロマンスの気配や裏切りへの怒り、友情やそれを失ったことによる復讐心や殺意にもこちらの腹が据わらないのです。だからなのか、役人上がりの素人が活躍することの納得性の担保のために適当に肉体的に痛めつけているようにさえ読めてしまいます。

 反対に本作の美点は、とにかく米国を悪役にして主人公が敵愾心と復讐心を燃やしているところです。しかも、本人たちはその汚職の理由付けにもっともらしいことを言っていますが、裏金工作を邪魔されたことが原因といういかにも公務員らしい動機づけで。そして、日本のエンターテイメントには珍しく非常に親中的なストーリーなのです。どんな国だって一皮めくれば汚いところはいくらでもあって、右手で握手、左手にナイフなんてザラでしょうけども、国家間の関係性にそういう意外性を持ち込んだことで役人上がりの主人公の屈折した人生観やアンダードッグス達の作戦にかける鬱屈した(死の)覚悟にも説得力が増していると思います。

 最後にやっぱり言いたいのは、もっともっとねちっこく登場人物たちの「負け犬の業」を描いて欲しかったなと思いました。ロマンス部分もBLにしちゃえば良かったのに。

 そこまで考えて、自分はちょっと高村薫リヴィエラを撃て』が好きすぎるんだな、と自覚しました。