ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

映画『ザ・ファブル』江口カン 監督、岡田准一 主演

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 酷評が目についていたので映画版はスルーしていたのですが、コミック原作がとても気に入っているので映画版を鑑賞してみました。

 これ、過小評価だと思います。面白かったです。前半のところで「命とは」の問答を安田顕岡田准一でやりとりする大事なシーンが唐突だった(そこまでのインコの掘り下げが足りない)ところとかコミック原作をなぞりすぎてファブルの上手下手絵や職場の同僚の隠し撮りの件は蛇足だろうとかのいくつかの難点はあるものの、全体的にはやりたいことはしっかり伝わってきました。

 冒頭、遠慮なしの『ブラック・レイン』『キル・ビル』押井版『GHOST IN THE SHELL』オマージュの畳み掛けから「Killer Soundboy (DJ B=BALL Remix)」のブンブンデジタルサウンドに乗せた銃撃乱闘シーンもノリノリでカッコよかったです。ただ、ファブルの背後の壁に人の形を避けた銃痕がつくルパン三世風演出は余計でしたが。あれではファブルの技術や特殊な能力の納得性が台無しになって、ただの主役=無敵設定に見えてしまいます。

 福士蒼汰コンビ登場、そして発砲シーンからの挿入歌「帰路知らず」は明らかに『パルプ・フィクション』の場面転換演出を引いていて、その直截さも私にはかなり楽しめました。曲そのものもパルプ・フィクションのThe Revels「Comanche」に寄せて作曲されています。

 仕事の後、証拠となる銃身(バレル)だけを海へ捨てて、その沈むバレルを水中に追いながら何本もの過去の仕事で使ったバレルを見せてオールディーズ風挿入歌「You Threw My Heart Away」を被せてオープニングタイトルに入るのも、Netflix『アーミー・オブ・ザ・デッド』の超秀逸なイントロスローモーションに通じる今どきハリウッドアクション風のナイス演出だと思います。

 ハリウッドと言えば安顕のハコスカを借りてケツを振りながらガレージから飛び出す様はジョン・ウィックそのものですし、隠れ家で拳銃の銃身を自作するシーンは風俗トラブルで自滅するヒットマンジョージ・クルーニーが演じた『ラスト・ターゲット』でのイタリアの隠れ家で仕事用のライフルを自作するシーンを彷彿させます。

 クライマックスのアクションシーンでは、岡田准一福士蒼汰のグレーチングを挟んだ上下の打ち合いシーンが印象的でした。ブレイクダンスをするように銃撃を躱しながらフロア下の福士蒼汰めがけて発泡する岡田准一を映すこのシーンは、アクションシーンでよく使われる工場などの足場のスカスカ感の怖さを上手く突いてると思います。このアクションシーケンスが私にとっての本作ベストでした。

 途中のストーリー部分も実力のある役者を無駄に散りばめたおかげで鑑賞を挫折するほどの大失敗をせずにつながっていると思います。江口カレン監督は「これがやりたい!」とアイディアがある脚本にはとても密度の高いシーケンスを作る才能があると思うので、あとは全体的なストーリーテリングがこなれてくればとても楽しみな監督であると思いました。