ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

読書感想『それからはスープのことばかり考えて暮らした』吉田 篤弘

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優しくて可愛らしい手触りの話だ。


全体的に毒気がほとんど感じられないファンタジーのような東京下町の人情話。同じような料理の温かさ、同じような人情味がトッピングされても江國香織だともうすこし愛憎というかスパイスが強くなると思う。


この本に出てくるサンドイッチもスープもラーメンも登場人物の人柄を表すように優しくてふくよかで美味しそう。だけども料理や料理方法に関する描写はあえてフワッとさせていてテクニカルな方には決して筆を進めない。あくまで優しいゆったりとした筆致に統一された描写。それでもやっぱり料理は大事なウエイトを占めるアイテムなのでその「書かなさ加減」は絶妙と言える。


主人公の青年は飄飄というかのんびりした映画好きの好青年だけども、なんかの小説に出てくるレコード屋バイトのジャズ好き、コーヒー好きの大学生よりよっぽど僕にとっては好感度が高い。


この小説にはごっそりと若い女性の登場人物が削られている。実世界の人物としての話だけど。それが郷愁や喪失感を上手に醸し出していて大胆だけど面白い設定だと思う。


それに何より、キーマンになる女性二人がなんとも魅力的。確かに若くはないのだけど、美人の書き方が凄く上手ですよ。