ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

デビルサマナー

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品川駅始発の千葉行きに運良く座れた。ただ、自分の気持ちは甚だ不愉快。

電車に乗り込む時に、前の松葉杖の男性がつまずかないようにスペースを空けてゆっくり歩いていたのだが、そこに後ろからぬるぬるっと割り込んできた50代のビジネスマンがいた。骸骨のような輪郭の黒縁メガネ。擦り切れた黒いノースフェイスのリュックを使っていたので、ぼくは彼のビジネスマンとしてのスペックをそこそこに見切った。僕にとって不運な事は、ガムを噛んでいるそのシャレコウベがとなりに座ってしまったことだ。気持ち悪い。おおっぴらに悪事を働く度胸はないが、自分が安全圏にいれば人を陥れるタイプ。

そして反対側は俺物語!!のような顔をしたガタイのいいブラウンのスーツ。スペース的にはシャレコウベとでプラマイゼロだが、こめかみに汗を垂らしている鈴木亮平は、足をぱっかーん!と広げている。股関節の調子が良くない人なんだろう。それにしても自分の2本分くらいあるぶっとい太もも。柔道やってたんだろうな。だけど、柔道やってた股関節の筋力あれば、その膝は閉じられるよな?!僕が座る時に、一旦中腰になって「座るからね」サインを出しているのに無視して、僕が座った後に迷惑そうに僕の尻の下から自分のジャケットの裾を引っ張り出し、そして弛緩、ぬるっと膝を広げてきた鈴木亮平に僕の大嫌いな「体育会系的不遜さ」を感じた。

そんな両者に挟まれて、それはもう生理的なレベルでの不快感に襲われ、読みかけの本を広げる気にもなれない。

と、ドタドタッという足音ともに、男性の「おい!大丈夫か?」という声。「ここにしっかり掴まって!」声の方に目を向けると、オシャレだけど浮ついてない印象のカジュアルに身を包んだ二人の男性に両側から支えられて、うつむいている茶髪の女性がいた。

ひどい酔い方をしているみたい。

時間的に出来上がるのが相当早いな、とも思ったけど、なんとなく雰囲気的に飲食店関係で働いている人たちのような感じがした。飲み始めの時間が早かったのだろう。なにかの打ち上げかしら。

「おい!立てるか?」「どっか席空いてないの?」二人の男性。その時、酔っ払いの女性が酷く辛そうな顔を上げた。目は開いてない。僕はフェミニストだけど、あえて言おう、不細工なぽっちゃりちゃんだ。しかも酷く酔った。

今にも戻しそうな微妙なアクションをしているぽっちゃりちゃんを、男性二人は明らかに持て余していた。彼らが乗りたい電車は違うらしい。手を離せばそのまま崩れ落ちそうなほどぽっちゃりちゃんは足に力が入っていない。だけどあと数分で、品川駅始発のその電車は出発してしまう。

この時、僕は純粋に悪意で人助けをすることにした。介抱している二人の男性の背の高い方の黒キャップにアイコンタクトして、グーに立てた親指で僕の背後を指すと、ぽっちゃりちゃんに席を譲った。

もちろん、両側のシャレコウベと鈴木亮平はドン引き。えー!俺らの平和な通勤時間は?的な。

黒キャップはかなりきちんとした言葉遣いで僕に礼を言いながら二人掛かりでぽっちゃりちゃんをぼくの座っていた席まで運搬していった。お礼の言葉に対して、僕の中にこれっぽっちの善意も無いことを自覚したのと、黒キャップの爽やかな態度も連れのルックスによってはチャンス到来のオスに変わるんだろうなという想像から、普段は滅多に使わない皮肉な笑顔で応えた。

自分はできるだけぽっちゃりちゃんから距離を離したところでつり革に捕まり、ドン引きのシャレコウベと鈴木亮平の間で小刻みに揺れているぽっちゃりちゃんをちらりと見やって、心の中で独りごちた。

「どっちかの膝の上に吐いたら、楽になるのに」

僕もたまには真っ黒な動機で悪魔を召喚する。

余談だけど、僕は「デビルサマナー(悪魔召喚士)」と呼ばれている悪名高い合コン女子幹事を知っているが、その子は可愛いし、個人的に飲めば楽しい人だ。