ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

二周遅れの「働き方改革」

 このあいだ部下が嘆いていた。「なんであいつら(職場の役職者のおっさん達)、業務の打合せをスケジュール設定無しに終わらせんスか!?」彼からすると、なんだか自分がやらないといけない仕事が匂うのに、タスキングをするための要素が足りなさ過ぎて気持ち悪いわけだ。

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 ・・・気持ちは分かる。でも、オッサンたちがそういう頭の悪い仕事の回し方をするには理由がある。

  1. 仕事を可視化し、明文化するといった文化がない
  2. スケジュール設定をした途端に自分がマネジメントの責任を負うのが面倒くさい
  3. 「問題が起きひんかったらええねん、言わんでもわかるやろ」と空気によるマネジメントを行使している

 

 自分はビル・ジェンセンの『シンプリシティ』を若いころに読んで、そいういう雑な落ち方をする仕事は意識的に後回しにしていた。おっさん達に対する啓蒙の意も込めて(自分では「リバース・マネジメント」と呼んでいた)。ところが、どえらい怒られた。「なんでまだやってないんだ!」
 そこで学んだことは、こいつらの仕事との距離感や分解能ははただ個人の「好き、嫌い」に拠るもので、組織上のプライオリティとは全然関係ないのだな、ということ。


 ライアン・J・ロバートソンの『HOLACRACY』には次のように書いてある。

オペレーションや仕事をこなすことに関して、最後に言っておきたい大切なことがある。それは、仕事の期限を切る習慣はもはや時代遅れだということ。ホラクラシーでは、日常レベルで、特定のプロジェクトや行動の期限を「切らない」のが常識なのだ。

(中略)
期限を切る習慣が楽なのは、現実が実際よりも予測可能で制御可能だと装うことができるからだ。これは一種の自己欺瞞であり、私たち人間にとってこの上なく心が安らぐものなのだ。そういう仕事術が築く信頼も、この自己欺瞞を基盤としている。偽りの世界に他人を誘い込み、相手もまた、確実性が高いという感覚を抱いて安心する。これは少なくともある時点まではうまくいくが、ひどく危うい基盤に立っている。


 部下には上記の引用を「残念ながら君は1周遅れ、オッサンたちは2周遅れ」とコメントしてメールしておいた。「ただ、圧倒的に君は正しい(『HOLACRACY』は個人の仕事術ではないので実務担当者が勉強して実装できるようなものではないから)」とも付け加えて。


 周りを見渡すと、日本には「二周遅れ」な仕事の仕方が溢れている。


 『OODAループ』(チェット・リチャーズ著)では暗黙的コミュニケーションを目指しているというのに、ジョブ・ディスクリプションも書けない職長が溢れかえって、「見える化」も遅々として進んでいない。


 ロジックやイシューからスタートする事業開発はうまくいかないと、直感や「好き」を如何にビジネスに落とし込むかを試行しなければいけない時代に、アジェンダ設定もせずに会議を開き、何の意思決定もせずにお開きにする。


 最後に引用するのは短編小説の一説だが、今、国をあげてやろうとしている「働き方改革」について皮肉だけども深い洞察を得られると思う。日本の生産性向上に「効率の追求」をしてはいけない。既存のフィールドで最適化を図っても、付加価値は上がらない。分母を減らす(労働投入量を減らす)という考え方も危険だ、「サービス残業」は効率という概念に含まれているから。

必要なのは産業構造の変換。経産省平成28年にそれをレポートにきちんとまとめている。

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http://blog.hatena.ne.jp/upaneguinho/upaneguinho.hatenablog.com/edit?entry=17680117127003736318


二周遅れの「働き方改革」。
「生産性」と「人口再生産力」も区別して語れない人がいるので仕方がないことなのだろうか。

 

「なあ、悟浄よ」
 八戒はゆっくりとした口調で語りかけた。
「いくさの極意とは、何だと思う?」
 およそ考えたこともない類いの問いに、俺は言葉に詰まった。
「さあ・・・・・・俺はただの牽簾大将だった男だから、そんな物騒なことは皆目わからないよ」
「指揮官の精神を討つことさ」
 はっきりそれとわかる皮肉の響きが、その言葉の端々に滲み出ていた。
「たとえ十万と十万が対峙して、どれほどの将兵の命が奪われようとも、いくさには何の関係も無い。なぜなら、勝敗を決めるのは十万の兵の死ではなく、たった1人の指揮官の精神の死だからだ。もうこれ以上、戦いを続けられない、ただそれだけを相手の大将に思わせるために、二十万の将兵は死にものぐるいになって戦うわけさ。古来より数えきれぬほどいくさが行われきたが、戦場で大将が命を落とす例なんぞ九割九分あったためしがない。大将はどこまでも安全な場所で戦況をうかがい、そこで『ああ、これ以上続けられない』と思ったとき、いくさは終わるんだ」
 突然、饒舌になって語り始めた八戒の黒い影を前に、俺はひたすら息をひそめ、その言葉に耳を傾けた。
「だから、俺はいくさをするとき、真っ先に大将を狙った。愚かなものでね、たいていの相手は、こちらの前衛とどう戦うかをまず考える。だが、そんなものはまやかしさ。いかにも自分たちは戦っているぞ、と派手に周囲に向かって叫んでいるだけの、下らない、子どもじみたはったりさ。唯一の大事は、俺の精神の息の根を止めることなのに、まるでわかっちゃいない。誰もが過程をーーーその過程を、命を賭すべき対象として捉えようとする。」
『悟浄出立』万城目学

 


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