監督: マーク・ロマネク
原作: カズオ・イシグロ
『わたしを離さないで』(早川書房刊)
脚本: アレックス・ガーランド
出演: キャリー・マリガン キャシー
アンドリュー・ガーフィールド トミー
キーラ・ナイトレイ ルース
シャーロット・ランプリング エミリ先生
鑑賞後に気持ちよくなれる映画とは言えません。
感情移入して涙すれば済む映画でもありません。
まったくSF的な絵など使わない。
パラレルワールドで、ちょっとだけ過去の時代設定。
牧歌的な風景、トラディッショナルな寄宿学校の建物。
唯一、「管理」の象徴であるリストバンドが与える異物感で、我々が知っている世界でないことを教える。
それが無かったら、時代背景と設定とが物語と乖離した状態ですんなり頭に入りすぎてた。
だけど、自分達に与えられた宿命に抗おうとしたり、受け入れたりしていく登場人物たちの心情への理解が進むにつれて、彼らの出自や生かされている目的が異常すぎて、それがだんだんと認識されて、リストバンドに反応した機械のランプが赤く光るたびにチリチリと後頭部にノイズが走る。
絶妙な世界観の設定と演出だと思う。
生に対する執着とエゴで臓器提供やクローンや家畜化をやってしまう人間の業や、それら所業についての倫理的議論をあっさりと突き抜けたところで、恋と別れの切なさを描ききってしまっている。
戦争が背景であればよくある文脈かもしれない。
しかし、この映画の美しい映像と設定のグロテスクさの組み合わせは稀有なものだ。
【completion】
臓器提供目的に育てられた彼らの所謂『死』を意味する言葉として"completion"が使われている。
「満了・満期」「達成」というニュアンスである単語しか与えられていないということに気づいたとき、そもそも彼らには『生』そのものが与えられてなかったというこを理解して、絶望した。
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