ろぐの垂れ流し

LOVE定額の相手に着信拒否されたことあるか?!

『DINER』平山夢明

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昔、ノーパンしゃぶしゃぶというのが流行ったと聞く。自分には絶対に楽しめない業態だ。なぜなら僕には食欲と性欲を一緒に満たすことは出来ないから。それら欲求の対象が同時に目の前に並んでいれば、先に気持ちの悪さを感じるだろう。仕方がない、そういう趣向の人間だから。

 


『ソドムの市』『ピンクフラミンゴ』は一生観ない映画だろうと想像する。

 


さて、友人の銀塩女子に勧められたこの小説だが、同じお皿に、美食に暴力と残酷描写が盛り付けられている。薬味的にエロも。

読書感で言えばカロリーも脂質も塩分もたっぷり。朝、通勤中に読むと、市民的な精神に自分を戻すのに少し時間がかかるキ○○イ小説。

 


配分としては暴力>食>セックスなんだけど、描写に色付けせずに同列に扱ってるようで、饒舌な料理と食べることの描写に対して、「例えばこんな拷問のやり方が・・・」で始まる陰惨描写の字数の多いこと!決して筆が走ってる勢いもなく。気持ち悪いけど、本当に上手。過去の著作の引き出しが存分に活かされていて、少し控えめな筆致で淡々と殺し方、死に方の説明がある。かたや暴力シーン、格闘・銃撃シーンの破綻気味の勢いとスピードのインパクトは強く、暴力・残酷のところでもコントラストを作ってるのが素晴らしい。

 


変態グロ小説に片足を突っ込みながら、なぜこのワンプレートの盛り付けを自分は受け入れられたのか。

 


ひとえに、敢えて散りばめられた品と知性だと思う。ヒロインのオオバカナコは設定上、お馬鹿なオツムの足りない子のキャラだが、追い詰められながらも生き延びることへの執念と知性を発揮しながら殺人者たちと渡り合っていく。その真摯さが小説のまとまりに一役買っている。舞台がダイナーという設定も本当に上手い。オールドアメリカンの内装の素っ気なさと殺人者たちの食事シーンとの相性の良さ、登場人物たちの無国籍さを包摂するタランティーノを引用したイメージのしやすさ。しかも作者はダイナーという業態の調度や供される料理のことも酒のことも非常に深い造詣を持って描いている。そこらの食レポブロガーに爪の垢を煎じて飲ませたいくらい。ここはオーベルジュか、という皮肉を登場人物に言わせるくらい、分かってる人への目配せが憎い。自分には突飛な殺人道具や仕込みなんかよりもよっぽど魅力的な要素だった。

 


最初は、続けて読むのが辛かった。毎日の通勤で少しずつ読み進める。

 


ところが、読後感の爽やかなこと。

 


恐ろしい。いつのまにか慣れちゃってたよ、この血まみれの狂気の世界に。